土師絵画工房は2010年に絵画修復業務を開始し、2017年には株式会社土師絵画工房として法人化、東京都杉並区にスタジオを構えて新たなスタートを切りました。
開業当初は個人事業として数件のギャラリーにお引き立ていただき、自宅マンションの作業部屋に次々と運び込まれる作品の処置に奔走しながら経験を積み、修復への理解を深め、技術を向上させることに励んでいました。それはまた文化財保存修復が求める公共性の高い理念と、生業としての絵画修復家、そんな理想と現実をすり合わせるような試行錯誤の連続でもありました。
その後も数多くの出会いに恵まれたこともあって少しずつ仕事が広がり、現在のクライアントは国公立美術館、私立美術館、ギャラリー、オークション会社、企業、個人コレクター、アーティストなど多岐に渡ります。
そして「良い修復」とはどういうものか。修復の評価は時代や地域、関わる人の考え方によっても様々です。誰もが納得するような修復などないかもしれません。今もし多くの人に賞賛されるような修復があったとしても、50年後の倫理観に必ずしも適っているとは言いきれません。
そのような中であっても、ご依頼のあった作品一点一点に対して、現時点で考えられる「良い修復」とは何かを考え、そして未来にも受け入れられる処置を常に模索してきました。それはクライアントと社会、両方のニーズに応えるための作業でもあります。
そして美術作品がその価値を保ったまま未来へと受け継がれてゆく、そのようなことを大切に考えています。
土師 広